姫田忠義さんは、100を越える民俗誌映画を制作しています。ここでは、その映画群の画像と要約を、それぞれの撮影地と対応させてグーグルアース上で閲覧するしくみをつくりました。<<グーグルアース表示へ>>をクリックし、日本地図上で各地点に埋め込まれた情報をご覧ください。さて、この「姫田忠義地図」からいったい何が見えてくるのでしょうか?
姫田さんは、1928年に神戸市で生まれました。戦後、民俗学者である宮本常一に師事しました。1968年から70年に、監督として始めて『山に生きるまつり』を制作しました。以降、現在に至るまで、日本各地の民俗文化を映像で記録しています。ただ、姫田さんは、たんに各地の民俗文化を記録しているのではなく、それらに通低している基層文化なるものを記録し映画にしているのです。この姫田さんの言う基層文化とはいったいどのようなものなのでしょうか?
通常、基層文化は表象文化の対概念として使用されます。後者が歴史学の対象となるような時代特殊的で構築的特性をもつ国民文化、アッパー・カルチャーなどであるのに対して、後者は通時代的にその基底をなしている伝承性の強い日常的な文化であるとされています。柳田國男さん、岡正雄さんなど、さまざまな民俗学者がそれぞれの視点から日本の基層文化を探求しました。これは、人類学者ルース・ベネディクトさんの『菊と刀』における「文化の型」とも似ているでしょう。また、地域研究者の高谷好一さんの「世界単位論」の思考・発想法にも通低していると思われます。それでは姫田さんの言う基層文化はどのようなものなのでしょうか?姫田さんは、基層文化について「自然に依拠した人間の精神文化である」とし述べており、基層文化の理解に関して、自然と人間とのかかわりにより重点を置いていると思われます。
しかし、そのような目に見えないような文化生成・維持の温床、根本原理のようなものを、どのように撮影し、映画として人々に伝えることができるのでしょうか。この「姫田忠義地図」は、姫田さんの映画群とはある意味で正反対の性格をもつものです。姫田さんは、日本各地をその足でまわり、その土地で生を営む人たちと信頼関係を築き、撮影し、その土地と人々に思いをはせながら映画をつくりあげてきました。それに対して、この地図は、超越的視点から地点化された姫田さんの営為の断片を、パソコン上の電子情報として流通させるのです。"しかし"です。姫田さんが基層文化を思考するとき、きっとそれぞれの土地での経験、イメージをつなぎあわせ反復的に再構成を繰り返しながらひとつの思想を練り上げ続けているはずです。姫田さんの経験の一端を画像と解説文により構成したこの地図は、その空間的な広がりと主題の関連性、さらには姫田さんが映像とした人々の営みの、時と空間への広がりを示しているのではないでしょうか。
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